artsunday若者らの結節点 : 中洲と「art pod 99」

若者らの結節点 : 中洲と「art pod 99」

新型コロナウイルスの影響により、日常が大きく変わる中で、福岡県中洲の昭和の匂いがする街並みの一角に「art pod 99(アート ポッド ツクモ)」 が誕生した。中洲には「art space tetra」や「冷泉荘」など、ゼロ年代以降の文化の主軸を担う、若い世代のアーティストにスポットを当てた企画をプロモートするアートスペースが軒を並べている。それらはアーティストなどの文化人の結節点となり、間違いなく、福岡県下の文化の土壌を築く基底となり機能している。
「art pod 99」 は、若きアーティストして活躍する山本哲平が、ギャラリー代表として企画を取り仕切り運営している。山下曰く、現代美術の表現に従事する30代未満の若いアーティストに焦点を当て、そのコンテンツや情報も同世代のフォロワーに向け発信することを大きなコンセプトとしているとのことである。そのような山本の試みは、80年代以降に社会に定着していったオルタナティブスペースが持つ、美術とその隣接する他領域をもフォローする機能とは一線を画している。一方、こうした試みは、広く人々に参画させる今日的な美術の流れに逆行するという向きもあるかもしれない。 しかし、流行り廃りを意識せず、商業主義に傾倒しない、徹底した審美主義によるキュレーションを行う山本の挑戦的で硬派な姿勢からは、パンデミックにより促進された美術の現場の閉塞感を突破させるものとなるだろう。
artpod99-01

artpod 99

artpod99-02

artpod 99

取材時、「art pod 99」 はオープニングに向け、慌ただしく動いており、プレエキシビジョンとして久保英佑の個展「DRIFT」が開催中であった(2021年 9月5日まで)。海を漂流した廃棄物を真空パックしたものを被写体とする大判写真の展示が中心となっており、廃棄物を扱う、そのビジュアルからは、50年代の美術史の動向である反芸術をイメージさせるが、久保の写真はネオ・コンセプチャルアートのような精錬されたセンスを感じさせつつも、同時代的なスマートさを感じさせるものとなっている。 また、それら作品のビジュアルや、「何かしらの理由で海を渡ってきた漂流物は型を捨て、自由に変化しながら新たな無所にたどり着く」(DMから引用)といった文言から、当ギャラリーの由来である付喪神の伝承を想起させ、プレオープニングとして相応しい作品と言えよう。

artpod 99

artpod 99

中洲には、村上博史(代表)と峰松宏徳(ディレクター兼アーティスト)の新進気鋭の両輪で運営される「Artas Gallery」が2年前に開廊しており、前述の「art space tetra」らと同様の、若い世代のアーティストが社会で活動するカタパルトとして機能している。9月には、村上がデレクションする「FUKUOKA ART WEEK」が開催され、その中で若い世代のアーティストにスポットを当てる「Next Generation Artist @ Fukuoka」も実施されている。 古くから中洲は歓楽街として知られる地域であり、著名な文化人御用達のバーやカフェも多い。「art pod 99」 の参入により、そうした中洲の持つ文化の結節点としての機能は、より重層的なものとなるだろう。今後の「art pod 99」 の活動に大いに注目していきたい。

日本経済大学 福地英臣 坂口将史

Tags:
Scroll up Drag View